前回の続きです。子どもの相談対応をしている事業所の方々向けに「不登校と発達課題」について講演した時のことです。前回の繰り返しになりますが、ある方の真摯な質問が胸に残りました。
「不登校のそのお子さんには確実に発達課題があり、勇気を振り絞って何度もご家庭に伝えているが全く反応がない。そればかりかお子さんの教育に全く関心がないようで、私たちは何をどうして良いかわからず、日々心を痛めている」。
この質問に会場にいたみなさんが共感したかのように首を縦に振りました。本当に素晴らしい方々だな、と実感しました。そして、質問された方は苦しんでいる子どもたちのために不快な思いをするかもしれないリスクを覚悟したうえで保護者に向き合い、子どもの課題解決のために協力していきたいと伝えている姿を想像し、胸が熱くなりました。
この質問を受け、過去に自らが経験したある出来事を思い出しました。前回、自分の教員としてのスタート地点が中学校だったことをお伝えしましたが、いまとは違い先生は熱血であるべき風潮があり、私も例にもれずテレビドラマの熱血先生を地で行くような教員生活でした。それはひょっとしたら今も変わらないかもしれません。学生にもそう見られていたようです。
いつも欠席がちな子どもがいました。ある「事情」があり、学校に通えたり通えなかったり。その「事情」を考えれば登校しなくとも保護者から「家にいます」と連絡があればそれも仕方ないことと考え、様々な学習材料を用意し家庭に届けていました。そしていつか「事情」が解決し元気な笑顔で登校してくれることを願っていました。
しかしある時、保護者が欠席の理由にしていた「事情」がウソであることがわかりました。あくまでもそれは保護者側の「事情」であり、サポートがあれば子どもが登校することに無理はないことも明らかになりました。子ども自身は学校へとても行きたかったようです。私は保護者と向き合い、学校も協力するのでお子さんを通わせてほしい、と懇願しました。
保護者は家庭がいかに大変であるかを言葉巧みに説明し、いまはそれが難しいと強調しました。それからも何度か話し合いを持ちましたがお子さんの不登校状況に変化は見えませんでした。私には保護者がお子さんの登校努力を怠っているようにしか見えませんでした。意図的な不登校にも思えました。
管理職とも相談し、相談機関につなげることにしました。残念ながら教員は家庭の中にまで入り込み、子どもを迎えに行くことはできません。しかし、子どもは登校を望んでいます。子どもの学習保障、教育を受ける権利を守るためにも何とかしないと、私はそう考えました。しかし事態は改善しませんでした。相談機関の担当者に私は強い気持ちを伝えました。子どもを登校させてほしいと。
担当者は言いました。「私たちには家庭にまで入り込む権利はない。先生の熱い気持ちはよくわかる。でもどう頑張っても無理なことがある。限界もある。少なくとも子どもが『生きている』ことがわかればよいではないか。教員としての『熱い気持ち』のハードルをもっと下げた方が良い」。
これを聞いた瞬間は「何を言っているのか!」と頭に血が上ったことを覚えています。しかし、いまなら理解できます。そのご家庭ではお子さんの食事や睡眠など基本的な生活は保障していました。虐待されていたわけではありません。もちろん端から見れば学校へ行ける状況なのに行かせないのは許されませんが、ご家庭にはご家庭の事情があったのかもしれません。
逆の立場になるとよくわかります。自分たちが最善と思った選択を、他から「こっちの方がいいよ」「こっちじゃないとだめだよ」と説得されてもなかなか納得できるものではありません。それが明らかに誤っていた選択だったとしても、法に触れない限りは誰に何を言われる筋合いもありません。治療が難しい病気になったとき、いまでは治療するのか、それとも余命を受け入れるのか、いまは個人の判断が尊重される時代です。
学習教材を届け、そのお子さんの安全確認ができれば、それ以上は保護者の判断に任せるしかありません。そうです。不登校のお子さんを見て「学校へ通わせなきゃ」と思っても、その背景要因によってはすぐに通わせない方が良い場合もあります。例えば子どものうつなど。私たちが良かれと思った判断でもよくよく事情を知らなければうかつなことはできません。
冒頭の話に戻りますが、私は自らのこの体験を話しながら、質問された方に「限界がある」ことを伝えました。参加者のみなさんは「ではどうしたらよいのか?」と途方に暮れてしまいました。それだけ意識が高く良心的な方々の集まりだったんですね。私はその様子に感動さえ覚えました。と同時に彼らの思いもよく理解できました。「子どもの権利はどうなる?」。
学校の先生や相談担当のみなさんにできるのは「ベストを尽くす」ことです。保護者や本人に選択肢となりうる正しい情報を提供し、見通しを持たせ、あとは適切な判断ができるよう助言する。そこまではぜひベストを尽くしてください。私はそんなみなさんの行動をいつでもサポートします。できることは限られているかもしれませんが、子どもたちのために共に手を携えていきましょう!
以上