みなさんは小さかったころの自分のあだ名、ニックネームを覚えていますか?私は苗字が「松浦」なので「まっくん」と呼ばれていました。まあごく普通の呼び名ですね。その後、千葉から大阪の小学校に転校し、今度は「まっちゃん」と呼ばれました。大阪でしたので「ちゃん」付けのあだ名が多かったようです(関西ではいまも「おばさん」を「おばちゃん」と言いますよね?)。

 でもそれよりもっと小さいころ、幼稚園に通っていた時にはかなり太っていて、自分でも覚えていますが当時の人気アニメの登場人物と同じく「でぶやん」と呼ばれていました。その後、ちょっと重い病気になり長期入院したのでその影響でかなりやせてしまいました。小学校に入ってからはもう「でぶやん」と呼ばれることはなくなり「まっくん」になりました。

 当時、幼稚園の先生に相談したような記憶があります。「『でぶやん』は嫌だ」と。それに対し先生(コバヤシ先生だったと思います)が特に何かをしてくれたかどうかは覚えていません。たぶん、すぐに入院生活に入ってしまったので、みんな私のあだ名のことなんか忘れてしまったかもしれません。

 特別支援学校で「特別支援教育コーディネーター」(学校内や周辺地域の障がいや病気があるお子さんに関する相談を受ける担当)をしていた頃、不登校の小学校女児について保護者から相談の依頼がありました。面談する当日にはその女児も同行し、学校へ行けなくなった事情について涙ながらに教えてくれました。なお個人情報保護のため内容については一部脚色しています。

 小さいころから仲の良かった友だちグループと毎日楽しく学校へ通っていたのですが、ある日みんなで一緒にマンガを読んでいたところ、その登場人物がたまたま女児と同じ名前で、太っていたがゆえに周囲から「ブー子」というあだ名をつけられていた、というストーリーだったそうです。

 友だちはおもしろがり、女児は特に体が大きかったわけではなかったのですが、その時から事あるごとにブー子と呼ばれるようになりました。女児は初めはあまり気にしていませんでしたが、ブー子と呼ばれ周囲に笑われることにはさすがに耐えられず、そう呼ばれるたびに笑いながらも「やめてよー!」と止めていたようです。

 ある時、給食で豚肉のおかずが出た際、教室内でどこからともなくクスクス笑いが起き女児の方をちらちら見る友だちが増えていきました。そして「ブー子だ!」「ブー子がおかずになった!」との声が上がり始めた。さすがに女児は腹が立ち、立ち上がって「やめてください!」と声を荒げたのですが、その途端にクラス内は爆笑の渦となり、同席していた担任の先生さえ噴き出していたそうです。

 女児は泣き出しました。しかし周囲はそれをまた面白がり、それ以降、教科書にブタの絵や写真が登場したり、音楽の時間にブタが登場する歌を歌ったりした際には必ずといっていいほどクラスは悪意の笑いに包まれ、女児が泣くかどうかをのぞきにくる子まで出始めました。さすがに先生もこの事態をまずいと思い対応し始めたのですがそれは遅すぎました。

 やがて「ブー子」から「ブタ」にあだ名は変遷し、女児のそばを通るときには鼻をつまんで「くせえー!」というポーズをする友だちが増えていきました。女児と仲の良かったグループの友人も同じくその行為を楽しんでいました。女児は朝、学校へ行こうとしても体が動かなくなり不登校状態になってしまいました。

 紹介した病院で診察してもらった女児はうつ病の始まりを意味することが多い抑うつ状態との診断を受けました。当時はまだいじめ防止対策推進法のようなものはありませんでした。いまなら女児が明らかな「いじめ」を受け不登校となったことにより「いじめ重大事態」に認定され学校や教育委員会は緊急に対応しなければならないレベルなのですが…。

 私は保護者や学校の管理職、教育委員会と話し合いました。その結果、教育委員会は女児や保護者と相談し、女児が他の小学校に転校することを提案しました。その後、女児は新しい学校に通うことができるようになったのですが、以前のような明るい笑顔はもうなく、いつも友だちの顔色をうかがいながらびくびくして毎日を過ごすようになったそうです。もうかなり昔の話です。

 このようなことを避ける意味でも、最近では先生が子どもをセカンドネーム(苗字)に男女問わず「~さん」をつけて呼ぶ学校が増えています。私も教育実習に出る学生には必ずそうするよう伝えていますし、大学の授業でも学生を「~さん」付けで呼んでいます。小中学校によっては友だち同士でも「~さん」付けで呼び合うようにしているところが出てきています。

 「あだ名くらいいいんじゃない」という意見もあるでしょう。ただこんな心理学の話があります。初対面の人の印象から、頭の中でその人を自分の嫌いな人やモノ、動物(例:あの人はヘビに似ている)に例えたときはその人に対しあまり良い印象を抱かなかった場合であり、逆に自分の好きな人、モノ、動物(例:あの人は推しのアイドルに似ている)が思い浮かんだ時には良い印象を持った場合であると。

その逆もあるのだと思います。あまり良い印象を抱かせないあだ名が付けられるとそこから連想ゲームのように悪いイメージが広がる場合も。たかがあだ名、されどあだ名。呼び方ひとつでそのひとの人生を狂わせてしまうかもしれないことを考えると、安易に子どもを呼び捨てにしたりあだ名で呼んだりすることはできませんね…。

以上