日本財団の2025年の調査には全国で2500名のご家族が回答したようです。「親なきあと」について当事者の家族はどう考えているのか。結果の概要として次のような点が挙げられています。

  • 障害者の「親なきあと」に不安を感じている家族は85.5%
  • 特に、重度知的障害者の家族では92.5%とほぼすべての家族が強い不安を抱えている
  • 「親なきあと」に向けて何らかの準備をしている家族は57.0%
  • 約4割は準備に着手できていない
  • 準備が進みにくい背景として「将来の生活にいくら必要か見当がつかない」(41.1%)、「どのような制度や選択肢があるか分からない」(36.7%)との回答が多い
  • 求める支援としては「住まいの選択肢の拡充」(67.6%)が最も多く、「親なきあと」も安心して暮らせる住居の整備に対するニーズが特に高い

 日本財団「障害者の『親なきあと』に関する意識・実態調査」から

 一言で言えば。当事者にとって「親なきあと」はとても心配だが何から手を付けてよいかわからず現実的には何もできていない、していないということでしょうか。知的障がいがある方の人生や命にかかわる問題であるのに国や自治体の動きもいまひとつであり、社会がこの問題に注目している様子もありません。しかし「親なきあと」についてはすでに深刻な事態を引き起こしているのです。

 「老障介護」という言葉をご存じでしょうか。高齢になった親が障がいがあるわが子を在宅のまま介護し続けていることを指します。「老々介護」という言葉は少し前から登場していますが、日本の平均寿命が延びた関係で、例えば90代の親を70代の「子ども」たちが在宅介護しているといった高齢者福祉に関する用語ですが、そのあとから「老障介護」という言葉が登場し始めました。

 「老々介護」も「老障介護」もこの国に支援や介護の必要な方の受け皿が少ないことが背景要因の一つになっていますが、これに関する事件の報道も相次いでいます。高齢の親の介護に疲れて殺してしまった、障がいがあるわが子の将来を悲観して無理心中した、というような。そしてこの種の事件の裁判を調べていくと、多くの場合、判決で裁判長はよく「なぜ周囲に相談しなかったのか」と指摘しますが、特に「老障介護」については何の解決手段もない地域もあります。

 少し視点が異なるかもしれませんが、私が特別支援学校に勤務していた頃、障がいが重いお子さんに本人が望むままに好きなものを食べさせ、子どもの肥満傾向が著しくなったケースがありました。担任が親に「もう少し栄養管理をしないと肥満による生活習慣病などになる可能性があるのでは?」と問いかけたところ母親は「障がいは産んだ私の責任。この子が死んだ次の日に私も死ぬ。短命は覚悟の上。好きなものを好きなだけ生きているうちに食べさせたい」と答えたそうです。親の気持ちも理解できなくはありませんが、これもやはり「命の問題」が社会で重視されてこなかった影響があると考えています。

 では「親なきあと」は「きょうだい」(障がいがある方の兄弟姉妹)が世話をすればいいのでしょうか。もちろん一人っ子もいるでしょうからその場合は別の方法を考えるしかありませんが「きょうだい」がいればすべて解決しますか?私は「きょうだい」に関する問題も扱っていますし、大学で私のゼミに入る学生には「きょうだい」がたくさんいました。

 「きょうだい」である学生に聞くと考え方はさまざまでした。中には「親なきあと」には障がいがある兄を優先的に入所施設に入れてもらうためそこの職員になる、という者もいました。そこまで極端ではなくともほとんどの「きょうだい」は自分が何とかしたい、と考えているようでした。とても素晴らしいですしこのような学生ほど優れた特別支援学校教員になるだろうと思いました。

 しかし彼らにも夢や希望、目標があります。「きょうだい」の支援こそが目標、というのならそれでも構いませんが、全く別の思いがあるのなら我が道を歩んでほしい、とも思います。そのためにも誰もが納得し安心できる「親なきあと」の施策が進むことが望まれます。

「親なきあと」についてはお金や住む場所があればそれでよいのか、と問われると果たしてどうでしょう?これまで読んでいただいてお分かりのように最も重要なのは、実は「人」です。それでなくとも福祉人材が減りつづけ、福祉職に就きたいとする若者が激減し、平均に比べれば福祉職の給与はかなり低く抑えられたままです。大手企業の初任給が40万に届こうという時代、福祉施設で働いていたゼミの卒業生に給与額を聞くと手取りで基本給18万、諸手当込みで20万とのこと。

この状況では残念ながら優れた人材を福祉の世界に誘うことは難しく、少子化の影響で生産労働人口と呼ばれる15~64歳になる人々が減っていく中で「親なきあと」の我が子の生活の場に心から信頼できるスタッフに定着してもらうにはどのようにすればよいのでしょう。

そしてさらに心配なのは自然災害が発生した時、感染症が蔓延した時などの緊急時に生き延びられることができるのか。21世紀に入り日本ではいくつかの震災があり、水害でも多くの方が命を落とし、感染症のパンデミックもありました。いざというときのために準備もしておかなければなりません。そして健康管理も重要です。

考えなければいけないことがこれほど山積みになっているにもかかわらず「知る人ぞ知る」レベルの「親なきあと」の問題。もうしばらくこの話題に触れ続けたいと思います。

以上