ふと思い出したドラマがあります。タイトルを正確に思い出せません。NHKだったでしょうか。いまでいう不登校を扱った内容だったような気がしました。ネットで調べたところ1989年の作品に「これかなあ?」と思えるようなものがありました。当時の著名な俳優さんが出演し、3夜連続で放送されたようです。
ふとしたことでいじめにあい、学校へ行かなくなって悪い友人とつるむようになった中学生の娘と家族の物語だったような気がします。もし心当たりの方がいたら教えてください。最終回の最後の方に衝撃的なシーンがあったと記憶しています。当時はまだ若い中学校の教員だったので驚いたのと同時に「こういうことがあるのか」と学ばされました。
最終回の最後の方のシーンだったでしょうか、いったんは学校へ復帰した娘でしたが、その後、精神状態が不安定となり、最後には入院した病院の中で叫んでいる場面があったと思います。それまで私は「子どもが心の病になる」とは考えてもいませんでした。子どもといっても登場人物は中学生でしたが、それにしても未成年の心の病には衝撃を受けました。ただ、本当にこのドラマで合っているかはどうか不安なので、もし違っていたら教えてください。
私は病気の子お子さんが通う特別支援学校で学校内外からの教育相談を受け付ける特別支援教育コーディネーターという仕事をしていました。同校で心が不安定な子どもたちの担任になることもありましたが、コーディネーターになってからも同様の相談がとても多く、改めて心の病について独学ですが勉強を始めました。
子どもの心の病については、いまだに学校関係者でさえ情報を知らないことが多いと思います。大学では病弱教育(病気のお子さんへの特別支援教育に関する授業)という科目を担当していましたが、特に心の病については時間を割いて指導してきました。なかなか表面化せず潜在的にこどもの中で進行していき、気づいたときには少し遅かった、という事例を経験してきていたので、教員を目指す学生には不登校などの教育課題については心の病の可能性を含め多面的にその背景を理解できるようにと教えました。
2025年の小中高校生の自殺が過去最高になった、という報道がありました。538名の尊く若い命が失われました。報道によれば高校生の自殺の背景要因に精神疾患が増えていて、うつ病が背景にある自殺者が54名いたそうです。しかし、うつ病であっても周囲や本人が気付かなかった子どもも含まれていたと思います。心の病で自死に至る子どもは確実に増えています。
過去にも何度か書きましたが、子どもはほんの少しのきっかけで心を病みます。発達段階にもよりますが、辛いことや苦しいこと、悲しいことへの耐性がまだ育っていなかったり、経験の幅が狭いがために自らの周囲だけが「世界のすべて」となりその中で息詰まってしまったり、あるいはトラブルの元凶は自分にあると自己を責めたりするなど。結果的に心を病み、将来に絶望し「死んだほうが楽」となってしまうのかもしれません。
大人の自殺者も決して少なくありませんが、本来「子ども」は前向きに成長していく生き物であり、自ら命を閉じてしまうことは想定されていませんでした。それが現代社会においては残念ながら年々、小中高生の自殺者増え続けています。そして2025年の子どもの自殺者数のうち「学校での問題」がそのきっかけであったのが251件で、前年より21件減少したものの全体の約半数が学校での出来事を理由に自殺していることになります。
子どもの自殺と発達障がいや知的障がいとの因果関係も取りざたされています。それは不登校やいじめなどの教育問題と根は同じだと思います。学校で起きた辛い出来事を言語化することが難しかったり、抵抗することができなかったりし、自分でも気づかぬ間に心の病が進行し、それでも頑張って登校していたがやがて力尽きた、という可能性があります。
心の病は「病気」です。「気持ちの問題」ではありません。医療が必要であり、学校や家庭では医療と連携しながら環境調整(本人が辛く苦しい思いをしている場から離すなど)、専門家によるカウンセリングや服薬をさせていくことが必要な場合があります。逆にそのような支援がないと治らずに悪化していくこともあります。本人の努力や頑張りを促すなど周囲が励ませば逆に状態が悪くなってしまうこともあります。
子どもは自分が心の病になっているとは気づきません。大人でさえ自分では気づかないことが多いと思います。大人の場合も周囲が本人の変調に気づき病院へ行くことを勧め、治療につながることがありますが、では子どもの場合は誰が気付けばよいでしょう。それは「学校の先生」にほかなりません。
小中学校や高校の先生はクラスの子どもたちの個性や特性を理解していると思います。そしてその中に「いつもより元気がない」「食欲がない」「友だちと遊ばなくなった」「欠席がちになった」「表情が乏しくなった」「今までとは違う行動をとるようになった」「急に乱暴になった」ような子どもがいて、同学年の他のこどもたちと明らかに様子が異なっていたら躊躇せず本人や保護者と話をした方がよいと思います。
その際、本人が自らの状態を言葉で説明することがしづらいようであればタブレットなどの電子機器に気持ちを打ち込んでもらったり紙に書いてもらったりし、できる限り子どもの心の真実にアプローチしてみてください。早期発見、早期対応が解決の鍵です。冒頭の「黄色い髪」(?)というタイトルだったと思われるドラマでは、主人公の女子はいじめを受け、ある日いきなり誰にも相談せず髪を染めました。この時点で周囲の大人が異変に気付き、本人に寄り添えば心の病の発症を防げたか早めに治療を始められたかもしれません。
その心や命を守るため、常に子ども一人一人を見つめ、その微妙な変化にいち早く気づくことができる先生が増えることを願っています。
以上