誰もがそうかはわかりませんが、年を重ねると若いころには見向きもしなかった事柄の良さを再認識することが多くなりました。テレビで時代劇などを見ることなどまったくなかったのに、いまは大好きです!わざわざ映画館まで足を運んだり時代小説を買って読んだりするほどです。またお恥ずかしいお話ですが、子どもの頃にはなぜか食べられなかった椎茸が大好きになりました!(それは年齢には関係ないか!)。

 さて時代小説の中では司馬遼太郎さんや池波正太郎さんが特にお気に入りで、司馬さんの作品はほとんど読破し、池波さんの作品では特に「鬼平犯科帳」がお気に入りで、以前のテレビシリーズでは鬼平こと長谷川平蔵役を演じられた中村吉右衛門さんが大好きになり、わざわざ彼の歌舞伎を観に行ったほどです。

 鬼平こと長谷川平蔵の存在については多くの書物やテレビなどで紹介されつくしてはいますが、簡単にお伝えします。天明の時代、18世紀後半頃でしょうか、江戸には凶悪犯罪が増えていました。浅間山の噴火などが影響し、農作物が凶作に見舞われ、生活が苦しくなった地方の人々が江戸に入り、そこでも生活できなくなると悪事に手を染めてしまうことがあったようです。

 長谷川平蔵は実在の人物で、このような凶悪犯罪を取り締まるため17世紀にすでに作られていた火付盗賊改役(19世紀後半まで設置されていたようです)となり、町奉行とは少し異なり悪党を直接捕縛したり、密偵を放って未然に情報を得て犯行を防いだり、あるいは自ら取り調べも行ったりしていたようです。

 しかし私が彼の業績で最も目を見張るのは「人足寄場」(にんそくよせば)を作ったことです。生活が苦しく地方から江戸に来たが仕事も身寄りもない者、あるいは犯罪にかかわりがあった者などを収容し、手に職をつけさせ働き手として再生できるようにしました。時の老中、松平定信の案で作られたという説もありますが、何らかの形で長谷川平蔵が関わっていたことは間違いないでしょう。

 そして「人足寄場」には障がいがある方や子どもたちの「職業訓練の場」としての機能もあったのではないか、と仮設する研究者もいます。「人足寄場」は決して刑罰の場であったり犯罪者のみを収容する場であったりしたわけではなかったようです。一つの町として、支援を必要とする様々な人々が集い、助け合いながら生活していたのではないでしょうか。そこには商店や銭湯などもあったそうです。ある種のインクルーシブな営みが行われていたのかもしれません。

 徳川家の第5代将軍、徳川綱吉についてみなさんがご存じなのは「生類憐みの令」でしょうか。「犬公方」と呼ばれるほど犬や猫を大切にし、人間にはあまり目を向けなかった、と言われています。昭和の時代に放映されていたテレビドラマ「水戸黄門」では、当時の副将軍、徳川光圀(水戸黄門)が綱吉の出したこのお触れにより極端に動物が保護されている様子を批判し、綱吉に犬の皮で作った上着を贈る場面が描かれていました。動物より人を大事にせよ、というメッセージということだったのでしょうね。

 しかし最近ではこの「生類憐みの令」は、元はと言えば高齢者や病人を大事にしなさいというお触れであり、動物保護はその余波だった、という説が有力です。綱吉は我が子を幼くして亡くし、その霊を弔うために無意味な殺生を禁じた、とも言われています。昭和には評判の悪かったこの将軍に、最近は改めて光が当たっているようです。

 徳川の話を続ければ「暴れん坊将軍」で有名な8代将軍徳川吉宗の長男で、その跡を継ぎ第9代将軍となった徳川家重には脳性まひであり、言語が不明瞭だったと言われています。直木賞候補作家でもある村木嵐さんによる「まいまいつぶろ」(カタツムリを意味します)には家重とその小姓を務めた大岡忠光(町奉行で有名な大岡越前の親類だそうです)との身分を超えた「友情」が描かれています。

 小説では家重は障がいのため尿を漏らし、畳の上をカタツムリのように線を描きながら歩くため、城の中で「まいまいつぶろ」と陰口をたたかれていたとされています。実際はどうだったのかわかりませんが、脳性まひ説が真実だとしたら、障がいがある将軍が国を治めていた時代があったことになります。父であった吉宗がサポートしたとか、家重の子である徳川家治が優秀であったからなど、家重の治世を関係者がバックアップしたと言われていますが、それが事実であれば将軍家では障がいがある家重の支援体制をしっかり構築していたのでしょう。

 このころ、庶民の多くは障がいがある人と長屋などで助け合いながら暮らしていたといわれています。制度として「五人組」などの住民の互助組織を通じて支え合うようにとも言われていたのでしょう。落語ではこのような長屋で「与太郎」が繰り広げる騒ぎを面白おかしく描いていますが、周囲の人は「与太郎」のやることなすことを「馬鹿だねえ」と言いながら温かく見守っています。将軍家だけでなく庶民もみな、お互いに助け合いながら生きていた様子が伺われます。

 フィクションからの引用も含め、過去の障がい者福祉のありようを想像し、いろいろな思いを巡らしながら今の日本を省みることができます。しかしやがて明治維新を迎え、安寧だった江戸時代が終わり、再び暗く長い戦争の時代が訪れます。続きは次回に。

以上