最近依頼の多い講演のトレンドテーマとして「カスタマーハラスメント(カスハラ)対策」があります。ご存じのようにカスハラとは就業者に対する顧客等からの度を越えたクレームなどを含めた理不尽な迷惑行為のことを指します。私は法律家ではなく特別支援教育や障害児者福祉に関する一介の研究者なのですが、このようなご依頼にも誠意をもってお応えするようにしています。
これもすでにご存じかと思いますが、実は保育園や幼稚園、学校における保護者からの不当なクレーム等もカスハラのカテゴリーに入るとされています。カスタマーの日本語訳は顧客、得意先などですが、日本の一般社会ではその範囲がもっと広くなり役所の窓口に来るような方も該当するようです。いわゆるサービス業全般に当てはまる用語になっています。
そして公立学校にお子さんを通わせる保護者もカスタマーに該当する、ということで、それまでは「園や学校の保護者対応」「保護者支援」を重要な講演テーマの一つに上げていた私に、新たに「カスハラ対策」の依頼が多くなっています。学校の先生の仕事はサービス業なんですね。
東京都は全国に先駆けて2025年4月、カスタマーハラスメント条例を施行し、東京都教育委員会はそれに合わせカスタマーハラスメントのガイドラインを作成し始めました。その内容ですが、次のような感じでかなり細やかに設定されるようです。
- 面談は平日放課後に原則30分(長くなったとしても1時間程度)
- 1、2回目は2人以上の教員で対応
- 3回目以降は副校長など管理職が対応
- 4回目からは弁護士や心理士が同席
- 5回目以降は弁護士が代理人として単独で対応
- 社会通念を超える言動をする保護者には教職員5人程度で対応
- それでも対応が難しい場合は警備会社に連絡
- 暴言や暴力、居座りなどは警察に通報
- 通話を含めて録音
(参考:読売新聞オンライン2025.11.6)
この条例には罰則規定はありません。しかしカスハラには暴言、暴力、不当な要求がつきものですので、すでに全国的に同様の行為に対しては暴行罪、脅迫罪等が適用され、加害者が逮捕される例も増えています。今回のガイドラインはむしろ学校の先生方に危機感を持っていただき、保護者のこのような言動や行為から心を病み退職するようなことがないよう教育行政が先生方を守る、という姿勢を明らかにしたものでしょう。
私は先日、体調不良によりその症状の専門外来がある診療所に初めて電話を入れました。初めての症状に不安になり、かかりつけの診療所に相談したところ、その症状であれば近隣のこの病院が良いと紹介してくれたのです。初めてかかる病院には不安もあり(病院だけじゃありませんよね)、まず電話で「受診していただけるか?」確認しようと考えたわけです。
ネットで連絡先を調べ電話を入れました。電話に出た受付の方にいつからどのような症状があり今はこんな感じです、と伝えたところ一言「ではウエブから予約してください」といわれました。さらに今日すぐに診てもらえるのか、と重ねて聞いたところ「ウエブを見ればわかります」とのことで、すぐに電話は切られました。
少し苦戦しながらもなんとかウエブで予約を取り、その日のうちに病院で診察していただき事なきを得たのですが、自分が相談員をしていることもあり、やはり受付の方の電話対応が気になりました。いやいや、それは私自身がカスタマーとしてクレームを入れるほどではないのですが、自分だったらこうするなあ、と振り返りました。
まず初めての病院に体調の相談をする人は多かれ少なかれ不安を抱いていることでしょう。そして自分の症状をまず聞いてもらい、その症状に対し迅速に診ていただけるのかどうかを尋ねるでしょう。そのとき電話の向こうから「それは大変でしたね。お辛かったでしょう。こうやって予約を取ってくれればよいですよ」と労わるような声が聞こえたらかなりホッとすると思いますし、その病院への信頼度が高まると思います。もちろん病院も忙しいでしょうからそのような心のゆとりはないかもしれませんが、ほんの少し、言葉を付け足すだけのことだと思います。
学校も同じではないでしょうか?お子さんの相談に来る保護者は、悩んでいるからこそ自分の子どものことを親の次によく知っている学校の先生に相談しようと考えるはずです。しかも担任の先生はおそらく初対面ではないので比較的気軽に相談できるはずです。そして保護者から学校に相談するくらいのことなのですから、内容はよほどのことなのだと思います。
そこでもし先生から「お父さん、お母さん、それはご心配でしたね。不安だったでしょう。どうすればよいか、一緒に考えていきましょう」と先生に言ってもらえればどんなにかホッとするでしょう。もちろんアルコールの勢いで学校に怒鳴り込んでくるようなケースは例外ですが、先生が心を込めて保護者に温かい言葉かけをするだけで、私はカスハラの未然防止につながる、と考えています。
大学で教員養成をする際、学生に念を押します。「教員になったその日から年上の保護者を相手に面談する機会が必ずあることを想定しなさい」「そのうえで教員になったばかりの自分に未熟さを感じるならありのままを話しなさい」「自分はまだ教員になったばかりなのでわからないこともあるが、お父さん、お母さんの悩みに寄り添って共に考えていきたいと伝えなさい」。
もちろん十分に勉強し、教育のプロとして必要な専門性を身に付け、保護者の悩みに応えられるだけの実力を兼ね備えることは当たり前ですが、仮にその悩みに答えるだけの実力がなかったとしても傾聴、共感、そして「ともに歩いていきましょう」のメッセージを伝えることだけで最初は充分だ、と話します。
私はカスハラ対策について講演でお話しする際には、必ず先に未然防止策を伝えます。もしそのような話を聞いてみたい、と考える方は是非ご一報ください。次回もカスハラ対策について続けます。
以上