大学では教員養成を担当しています。毎年、教員免許の取得を目指す多くの学生が教育実習に参加します。ご存じかと思いますが、教育実習とは大学での学びを実際の学校で活かし、実践力を身に着けるための貴重な機会です。昨今では小中学校等の教員免許を取得するための教育実習は4週間(1か月)の長期間となっています。

 私が勤務する大学では教育実習の後半、終わりに近いころに総まとめとなる学生の「精錬授業」の様子を大学教員が参観しに行きます。大学には北海道から沖縄まで、全国津々浦々から学生が入学してきていて、教育実習を行う学校はおおむね卒業した母校になることが多いので、大学教員も日本全国へ飛びます。私も過去には沖縄・宮古島の小学校に1泊2日といる強行日程で授業参観に出張したことがありました!

 小学校と特別支援学校の教育実習を担当しているのでそれらの学校を回ることが多いのですが、主に年度の上半期は小学校、下半期は特別支援学校へ伺うことになっています。今回も数校の小学校へ授業参観に伺いました。そして自分がいた頃の学校教育と昨今の学校教育に大きな変化が見えることに驚きました!

 ご存じのように2020年のコロナ禍以降、日本はGIGAスクール構想を進め、今やすべての小中学生が1台ずつタブレット端末などを所有し、授業でもふんだんに利用しています。また黒板を使う授業スタイルがいまだ中心ではありますが、サブとして電子黒板や大型モニターなど、子どもたちの回答や意見がすぐに表示される機器を用い、アクティブラーニング(教員と子どもがやり取りをしながら進める学び)といった双方向の学びがほとんどの学校で当たり前のように導入されていました。子どもたちは驚くような速さとスムーズさでタブレットをサクサクと操作していました。

 そのような授業参観を重ねる中でもう一つ、私を驚かせ、感動したことがありました。教室の掲示物です。特に教室の背面黒板の周囲に掲示されることが多い子どもたちの作品が様変わりしていました。多くの学校で子どもたちの自己紹介、作文、観察記録などがすべてデジタルになっていたのです。本当に感動しました。それにはこんな理由がありました…。

 特別支援学校に勤務していた頃、特別支援教育コーディネーターという仕事に就き、校内だけでなく校外の、地域の小中学校の先生方や保護者の皆さんからも多数の相談を受けていました。そして小中学校へ赴き、相談対象の子どもたちの授業の様子を見学する機会が何度となくありました。もちろん保護者の了解があってのことです

 相談対象となるお子さんですから当然何らかの課題を抱えていて、小中学校の先生方は何とか子どもたちを救いたい、支えたいと考えているケースばかりです。教室に入り、対象となったお子さんを見ていると、それなりに課題を感じさせる行動が見受けられました。しかしそれよりも何よりも気になったのが、教室内の作品掲示でした。どの先生方も熱心に学級経営をされているので、子どもたちが一生懸命作った作品を上手に装丁し、工夫を凝らして飾っている姿には感銘を受けました。

 しかし、課題を抱えたお子さん方の作品には、やはりそれなりの特徴があり、作文では他の子どもが原稿用紙一杯に書いているところを2~3行しか書けていない、植物の観察記録では花の絵が上手に描けていない、書道作品では漢字が間違っている、それらの作品全般を通じて文字が上手に書けていない、筆圧が強すぎ文字が濃く、消しゴムで消しても消しきれず、紙もくしゃくしゃになってしまうなどなど。

 特に絵が苦手なお子さんは、私たちが専門用語で「スピンドルマン」「棒人間」と呼んでいる人間を線で表現する姿で描いていたり、画用紙一杯に薄暗い色彩で校外学習の思い出を描いたりするなど特徴がまざまざと出ていました。小学校高学年になればなるほど、課題を抱えた子どもたちは自分の作品が他と比べて大きく異なることに気づき、そして傷つき、他の友だちと同じように作品を掲示することの「できなさ」を嘆き、心の傷を大きくしていました。

 相談してきた先生方にはそんな子どもたちの心情を伝え、他の掲示方法を検討できないか提案しましたが、なかなか難しいのが当時の現状でした。一生懸命頑張った子どもの作品を掲示すればその子たちの自己評価は高くなりますし教育効果が上がります。これをやめることはできません。では課題がある子どもはどうしたらよいのか…。

 最近の小学校を回り、デジタル作品が多く掲示される教室を見て、私は当時のことを振り返り、涙が出る思いでした。デジタルであれば一人一人のできるできないの差は埋まり、差が見えにくくなります。書道などをすべての掲示物にそれが反映されることはできないのですが、少しでも心の傷を受ける子どもが減るのであればICT教育は特別支援教育、インクルーシブ教育の視点での功績は極めて大きいと実感しました。

 伝統的なものを大事にしながら新しいものを効果的に活用していく。学校教育でも日常生活でも、とても大事なことだと思います。そして学校や放課後等デイサービスで、子どもたちが誰と比べることもなく自分なりの可能性を最大限に延ばし、未来へ向けて成長していくことができれば、いつか世界はとても素晴らしく輝くだろうと信じています。

以上