こんにちは。今回も保護者支援の続きを。
前回は先生方が課題を感じたお子さんについて、まだ気づきのない保護者にそれをどう伝えるかについて触れました。ところでそれまで「障がい」とか「特別支援教育」などにまったくなじみのなかった保護者のみなさんは、これらの言葉の響きに何を感じると思いますか?このブログをご覧になった方の中で、これらの言葉に縁のなかった人生を生きてきて、お子さんについて初めて「障がい」「特別支援教育」といった言葉が用いられた瞬間、どう感じられましたか?
学生への話です。まだ若い彼らには実感が沸きません。中には障がいがある兄弟姉妹がいる「きょうだい」児である学生もいますが、同様に「初めて自らが主体的にその言葉に触れる瞬間」の経験はありません。そんな学生たちには次のような話をします。「もし自分にとって最も大切な人、世界で一番大事な人が難しい病気になってしまったことを知ったら、その瞬間、あなたはどんな反応をするか?」。学生はしばらく目をつぶって考えます。そしてみな一様に「混乱します」「わかりません」と答えます。
「ではそうならないようにするにはどうしたらよいか?」。私は畳みかけます。学生はここでも一生懸命考えますがなかなか答えが見つかりません。そこで次のような事例を紹介します。「今から10数年前、世界的に新型インフルエンザが蔓延し、学校が休校になるなどの社会現象があった。そしてつい数年前、新型コロナウイルスのパンデミックがあり、日本も大変な状況になった。それはいまも続いているか?」。学生はノーと答えます。「ではなぜ今はそれらがあまり騒がれなくなったのか?」。ここで数名の学生が「治療法がわかったから」「五類感染症に指定されたから」「ワクチンが作られたから」。
それは事実ですが、まだ私の問いに対する正答ではありません。次にまた事例を紹介します。「江戸時代まで、西洋人は本当に鬼のような姿をしていると信じる日本人が多かった」「太平洋戦争の頃も『鬼畜米英』と書かれたかかしを子どもたちがやりで突き刺す軍事教練という授業をしていた。子どもたちは心の底から敵国の人間を恐れていた」「でも真実はどうだった?」。こう問うと学生の何名かが「それは事実ではなかった」「間違っていた」と答えます。ここでようやく正答が見えてきます。最後に学生たちは「大切な人が難しい病気になったとき、混乱を回避するには正しい情報を知ることが重要」と理解します。
前置きが長くなってしまいましたが、初めて「障がい」「特別支援教育」という言葉に触れた保護者は混乱し葛藤し、どうしていいかわからなくなります。それは「障がい」「特別支援教育」に対し正確な情報を持ち合わせていないからです。そしてどちらかと言えばあまり良くない誤った情報が先に入っていることがあります。ネガティブで誤解に満ちていて偏見が溢れている情報です。
このブログを読んでいる先生方や保護者のみなさんはどうでしょう?冗談で「勉強しないと特別支援学級(学校)に入ることになるよ!」と子どもに言ったことはありませんか?その瞬間、子どもは「特別支援学級(学校)は勉強のできない子どもが通うところ」と刷り込まれてしまいます。そんなことを話した経験はありませんか?
特別支援学級も特別支援学校も一人一人の子どもをとても大切にする場です。子どもの数が、それでいて少なく先生の数は比較的多く、とても手厚い教育をしています。そして子どもたちの能力に応じ必要な様々な力を身に着けさせてくれます。子どもたちはみんな生き生きと毎日そこに楽しく通い勉強しています。私は素晴らしい教育機関だと信じていますし、最近ではそんな場所を求める保護者も多くなり、特別支援学級が全国で急増し、特別支援学校は教室の数が足りなくなる過密化という現象を起こしています。大人気です!
依頼を受け、ある小学校のPTA研修会でそのような講演をしたところ、翌朝職員室に電話が殺到し、その多くが「今すぐうちの子を特別支援学級に入れてほしい」という要望だったそうです。保護者が真実を知るということはとても重要で、逆に言えば、真実を知らない保護者に安易に「障がい」「特別支援教育」という言葉を用いるのは不安を高める以外の何物でもなく、学生には初めてそのような相談をする保護者には極力使わないように、と指導しています。それらの言葉に関する正しい情報を何らかの形で伝えたうえで、結果を急がず、ゆっくり考えてもらうようにしなさい、と伝えます。
昨今はネット上でフェイク情報が蔓延し、なかなか自分の力で真実を見つけ出すことが難しい時代になりました。だからこそ専門機関、相談機関の早期活用が重要になってきます。人間の心理は恐ろしいもので、誤った情報を毎日見続けさせられるとそれがその人の中では「真実」になってしまうことがあります。だからこそ保護者のみなさんは不安になったらできるだけ早く身近な園や学校に相談を、そして先生方はしっかり保護者の悩みに耳を傾け、自らも一緒に勉強するスタンスで専門機関、相談機関を紹介してください。お願いします!
以上