こんにちは。ときどき就学前のお子さんの保護者から発達についてご相談を頂くことがあります。そんな時、まず私は「早くに相談してくれてありがとう!」と感謝の言葉を伝えます。相談は早ければ早いほど良いと考えています。お子さんが小さいうちに「あれ?」と思うことがあればすぐに身近な方(保育園や幼稚園の先生など)に相談し、そのうえで相談機関や専門機関を紹介してもらうとよいでしょう。
保育園や幼稚園の先生は、保護者から相談があれば一生懸命耳を傾け、もし専門性が必要な内容であれば管理職や行政などに報告・相談し、保護者を相談機関に誘導するようにしていただければと思います。よく「保育園や幼稚園の先生方の専門性」が話題に上りますが、学校同様、昨今の子どもたちやご家庭はとても多様化していて、それらすべての専門性を担保していくことは不可能です。そこは気にしなくてもよいと思います。
例えばみなさんはご自身の健康に不安を持った時、まずどこに相談するでしょう。地域のかかりつけの病院が多いかもしれませんね。そこで医師に診立ててもらい、もし詳しい検査や診察が必要であれば専門病院を紹介してもらいます。そのような診療を「プライマリー・ケア」といい、総合的で一次的な診察をしてもらうことを指します。自分で自分の体調を正確に判断することは難しく、身近な地域の医師に相談することは重要ですよね。
同じようにお子さんの発達に関する専門的な相談に対し保育士や幼稚園・学校の先生がすべて的確に回答することは難しいかもしれません。保護者のみなさんはプライマリー・ケアとして身近な先生に相談し、紹介してもらったより専門的な機関に詳しい話を聞きに行くことが理想です。私はいくつかの自治体で様々な相談に対応していますが、保育園や幼稚園に紹介された方がいらっしゃることがあります。おいでになった方には必ず「よくいらっしゃいました!お子さんやご家族にとって早期の相談は必ずプラスになっていきますよ」とお伝えしています。
すべての自治体に多かれ少なかれ、専門的な相談機関は必ず設置されています。また最近では地域の小児科の先生が医学会の研修を受け「子どものこころ相談医」「診療医」として発達に関する相談を受けるところが増えてきています。保育園、幼稚園、学校などは保護者から相談を受けた際に紹介できる地域の相談機関を把握し、上手につなげていってください。
ここで一つ、先生方が絶対にやってはいけないことをお伝えします。お子さんが大きくなってから相談にいらっしゃる保護者のみなさんからこんな話を聞くことがあります。「子どもが小さいころ、発達に気になることがあり、先生に相談したところ『お母さん、お父さん、大丈夫ですよ』『気にしすぎですよ』『大器晩成型ですよ』『大きくなったら治りますよ』といわれた」とする証言です。これは絶対にやらないでください!
保護者にとってはたとえ専門性が不足していても先生は先生です。「先生が大丈夫と言った!」。このことは保護者に大きな安心感を与え「いつか治るのだろう」と課題を放置し、何の支援も配慮も受けず成長した結果、より大きな課題が残ってしまった、という例がいくつもあります。
実際にこんな事例がありました。ある中学校の管理職から相談を受け、気になる生徒がいるので見に来てほしい、と言われ訪問しました。そのお子さんはいわゆる不良少年のような様相で、学校に悠々と遅刻してきて廊下を闊歩し、授業中の教室を覗いては茶々を入れ授業妨害を重ねていました。
私は彼に近寄り話しかけました。それまで凄んでいた表情が緩み、とても愛くるしい笑顔で「何?」と振り向きました。さりげない日常会話を重ねた後「一緒に勉強しようよ」と誘うと喜んで着いてきました。空き教室を借り2桁の足し算を解いてもらいました。彼は一生懸命考え始めましたが、全くわからないようで答えも間違っていました。その様子や会話の内容などから知的な発達に課題があるのではないか、と推測し、その後、保護者の了承を得て発達検査を受けてもらったところそのような結果が出ました。
母親に学校へ来てもらい検査結果を踏まえ私の考えを伝えました。いまからでも遅くないので特別支援学級で学び直してはどうか、と。母親は泣きながらこう話しました。「小さいころから発達が気がかりで小学校低学年の頃に担任の先生に相談しました。先生は『お母さん大丈夫!心配し過ぎ。いつか気にならなくなりますよ』と言われ安心したのですが…」。
残念ながら他の家族や本人の反対もあり、特別支援学級で学ぶことはかなわず、彼はその後ある事件が基で更生施設に収容されました…。もし小学校低学年の時に担任がお母さんの話を真摯に受け止め、相談機関を紹介していたら彼の人生は大きく変わっていたでしょう。知的な発達の課題からおそらく通常の学級での勉強にはまったくついて行けず、いくら努力しても追いつかず、やがて勉強以外の方法で自らの承認欲求を満たす方法を見つけ、成長とともに行為がエスカレートしていった…。さて、彼の人生をそこまで追い込んだ責任はだれにあると思いますか?
保育園、幼稚園、小学校の先生であるみなさん。お子さんが小さい頃の相談対応は極めて重要であり、相談機関・専門機関につなげる力があればそれでよいと思います。決して生半可な知識で根拠もなく「大丈夫!」などといういい加減な回答はしないでください。その一言が子どもの人生を左右してしまうこともあるのです。
専門性はなくとも基礎的な知識、情報を身に着けておくことは最低限必要ですが、要は悩んでいる保護者の話を真摯に受け止め、親身になって他機関を紹介するコーディネート力があれば十分です。「大丈夫」と言わずに「お困りですね。一緒に考えましょう」とぜひ伝えてください!
次回も今回の続きを。
以上