こんにちは。今回は「夢」の話をしたいと思います。
放課後等デイサービスの原点となった障がい児放課後クラブ「あかとんぼ」を立ち上げた頃、その経験談を聞かせてほしい、と様々な団体から講演を求められました。ある時、知的障がいがある成人の方の施設で、その親御さん向けに話をしてほしい、と依頼されました。
「あかとんぼ」の話が終わり、質問コーナーとなりました。あるお母さんからこんな質問が出ました。「私の30代になる息子はいまも『大きくなったらお巡りさんになりたい』と言っている。どう言葉をかければよいか?」。お母さんはそんな息子をたしなめてほしい、とお考えのようでした。
私は特別支援学校の教え子とのやり取りを例に挙げて話しました。「自分のクラスには『大人になったら自衛隊に入ってゴジラと戦いたい!』と夢を語る生徒がいる。みなさんはこんな子どもになんと答えますか?」。そう問うと、ほとんどの方から否定的な考えが聞かれました。「そもそも怪獣と戦うなんてナンセンス」「知的障がいがあるのに自衛隊なんかに入れるわけはない」。
さらに私は問いました。「では知的障がいのあるお子さんは夢を語ってはいけませんか?」。誰もが考え始めました。「自衛隊に入れるか入れないかを決めるのは自衛隊です。確かに怪獣と戦うのはナンセンスかもしれませんが、自衛隊に入りたいとする夢を私たちが端から『無理!』『あきらめなさい!』と断じてもよいのでしょうか。障がいのあるお子さんは夢を持ってはいけないのでしょうか?教員である私はその子にこう答えました。『では自衛隊に入るためにいま必要な勉強は何かな?そこから始めよう!』。平仮名でも足し算でもいいので、いまその生徒に必要な力は何かを考え、少しずつステップアップする教育計画を立てました。そして本人は一生懸命勉強しています。彼が大人になり、いつか本当に自衛隊の試験を受けるならそれでよいでしょう。合格するか否かを決めるのは私たちではありません。障がいがあろうとなかろうと『夢』を持ち『夢』を目指す自由は当たり前にあっていいのではないでしょうか?」。
参加されていた方ははっと気づいたようにうなずき、理解して頂いたようでした。30代の息子さんが警察官になりたいというがどう答えればよいか、と質問されたお母さんも「わかりました。じゃあそのためにいま何をすればよいのかと息子と一緒に考えたいと思います」と笑顔で語ってくれました。
このエピソードには余談があります。講演後、施設長と話しました。施設長は言いました。「無責任に夢を語らせない方がいい」。いくら頑張っても無理なものは無理。安易な言葉で変な期待を抱かせることの方がかわいそう、と話されていました。何十年も障がい者福祉の仕事に従事し、現実を見てきた施設長ならではの見解だったのでしょう。しかし私はとても残念に思いました…。
障がいがある方の欠格条項をご存じでしょうか?障がいがあるとこれができない、これをやってはいけない、このような仕事についてはいけないなど、障がいがあることを前提にした様々な禁止事項を指します。実はスポーツの世界にも同じような規則がありました。
1990年に出版された「遥かなる甲子園」という漫画があります。作者は山本おさむさんといって、この作品のほかにも「どんぐりの家」「わが指のオーケストラ」など、障がいがある子どもたちやそのご家族、そして彼らに関わる関係者による社会参加、施設建設、理解啓発を目指す様々な取り組みを感動的に、そしてダイナミックに漫画でわかりやすく読ませてくれるヒューマンドラマの第1人者です。
「遥かなる甲子園」は1964年から数年間、沖縄で大流行した風疹の影響により聴覚障がいを持って生まれた子どもたちが高校野球に取り組むストーリーです。当時は安全面での懸念からろう学校の参加を認めていなかった沖縄高校野球連盟に対し「聴覚障がいがあっても硬式野球がやりたい!」と要望し、彼らは実際に通常の高校の野球部と試合をする様子を実際に見てもらい考え直してもらおうと奮闘した内容です。映画化もされました。彼らの努力が実り、その後、沖縄高野連は障がいの有無にかかわらず全国大会予選への参加を認めるようになりました。
2024年夏、東京都の全国高校野球大会の予選に特別支援学校が始めて正式に参加しました。知的障がいがあっても他の高校生とともに白球を追い、グランドで汗を流し、試合後に共に健闘をたたえ合う時代が到来しました。高校野球だけでなく2024年10月にはサッカーの全国大会兵庫県予選にも特別支援学校の合同チームが出場しています。バスケットボールなどの全国大会(予選含む)でも特別支援学校の参加が認められています。
欠格条項はいまも一部に残ってはいますが「障がいがあるから無理」「危険」とひとくくりにしてしまう社会は改善されつつあります。もちろん一人一人の状態に応じてできることできないことはあると思いますが「障がいイコール無理」「障がいイコールできない・あぶない」と安易に判断する時代は終わりました。障がいがあろうとなかろうとなりたいものを目指す、やりたいことをやる権利は当たり前に誰にでもあります。
そして放課後等デイサービスや特別支援学校など教育や療育に関わる場所では、子どもたちに未来を語り、夢を育み、自らそのために努力できる、夢を追えるような場所であるべきだ、と私は考えます。夢を持つ自由、夢を語る権利、次回も続けてお話ししたいと思います。
以上