こんにちは。今回は前回の記事に続き放課後等デイサービスの意義について感じたことをお伝えしたいと思います。
当時の養護学校(今の特別支援学校)教員であった私が、自ら立ち上げた「第三の場」でもある障害児放課後クラブ「あかとんぼ」の役割として重視したのは「学校では学べないことを学ぶ」「学校で学んだことを一般化する」の2点でした。では「学校で学べないこと」とはなんでしょう?
学校はある意味、良心的な空間です。信頼できる先生と勉強し、仲の良い友だちと遊び、楽しい経験を繰り返しながら「生きる力」を身に着けます。ちなみに「生きる力」とは文部科学省が定義している「すべての子どもたちに学校で育みたい力」であり、具体的には「確かな学力」「豊かな心」「健やかな体」の3つの要素から成り立ちます。つまり本人の能力や発達段階に合わせた学びで知識を増やし、教育経験の中で道徳的な心、例えば人を思いやり自分も大切にする気持ちなどを育み、本人の健康状況に応じた体力作りにも力を入れる。そのプロセスを具現化していくことが日本の学校教育の最大目標ということです。
そのためには学校はもちろん良心的な空間であるべきなのでしょう。昨今では先生だけでなく友だち同士でも「さん」付けで呼びあったり、言葉遣いも人を傷つけやすい「とげとげ言葉」を封じ安心して伝え合える「ふわふわ言葉」を使おうとしたりする風潮も多くの学校で見られるようになっています。また少し前までは学校の失敗は評価の対象にならず、どちらかといえば叱責や罰則の対象となり、良い結果のみを重視する教育も行われていました。
もちろんポジティブなことばかりの社会であればいいのですが、そればかりではないことはみなさんもご承知の通りです。学校内も同様ですが、社会に出れば人間関係に揉まれ、意見の対立があり、辛い経験や苦しい体験もあります。そんなときどうすればよいかを学校では「特別の教科・道徳」を中心に学んでいくのかもしれませんが、学校の中で意図的に辛い経験や苦しい体験をさせることはできません。予期せず発生した仲間はずれ、けんか、いじめや不登校などに対しては適切な指導が行われていると思いますが、それらを意図的に準備しすべての子どもに体験させるような教育はできないと思います。
障がいのないお子さんであれば、それでも友だち同士の遊び、地域での生活などから体験的に物事の善し悪しを学び、実践し、身に着けて行くことができるでしょう。しかし知的障がいや発達障がいがあるお子さんたちは、日々の生活の中で自然に学ぶよりも意図的・具体的・体験的な学びを通して知識を定着させる傾向が強いとされています。学校という良心的な空間では専門性のある教員から社会生活に必要な様々な知識を学びますが「ケンカをした後に仲直りする方法」を意図的に学ぶことはできません。
「あかとんぼ」ではスタッフや学生ボランティアなど多数の大人が子どもたちに関わる中で、さすがに意図的にケンカさせることはしませんでしたが、自然発生的に起きたケンカや仲間はずれ、悪口の言い合いなどの場を察知するとすぐにそこに介入し、課題を解決する方法を子どもたちにロールプレイングさせていました。学校では難しいかもしれない真の意味での様々な厳しさも含めた社会を「生きる力」を学び、何があってもすぐに立ち直る再生する力、まさに「レジリエンス」の学習を前世紀からしていました!
また学校では子どもたちが校内で獲得した力を評価し、保護者への連絡帳にも「よく頑張っていました」「よくできました」と記載することが多くありましたが(もちろん私も含めて!)、よく考えればそれはあくまでも「学校の中」でできたことであり、学んだことを実際に家庭や社会で活かせなければ本当にその力が身に着いた、とは言えません。
例えば「学校の洗面所で上手に手を洗えた」という評価があったとしても、では学校以外の場所、家庭や社会でも上手に手を洗えるのか、と問われればそれは未知数です。学校の洗面所は子どもの身長に高さを合わせ、蛇口もひねりやすいように工夫していることが多いようです。しかし街中の洗面所はすべて同一ではなく、家庭の洗面所も学校とは異なります。学校で学んだ力を応用し、どこのどんな洗面所でも同じようにできてこそ「身に着いた」と初めて言えるでしょう。
「あかとんぼ」では地域の様々な場所、スーパーやショッピングモール、公民館や図書館、公園などに頻繁に出かけ、積極的に公共施設のトイレや洗面所を使い、また本の貸し借りや買い物などの体験も重ねました。学校で学んだことを日常的に一般社会で繰り返しながら学校での学びを具現化する努力を重ねていました。
「学校では学べないことを学ぶ」「学校で学んだことを一般化する」。それが放課後等デイサービスの本来の姿である、と私は考えています。そしてそれこそが子どもたちの「生きる力」を最大限に伸長させることができる放課後デイといえるでしょう。
以上