先日、宮城県にある独創的な取り組みをしている複合施設を見学しました。障がい者の就労継続支援B型事業所、グループホーム(GH)、保育所、そして地域の方が自由に出入りできる会員制のフリースペースが併設されていました。フリースペースにはスタッフとして障がいのある方が関わっていました。

 主宰者の方に案内をしていただき、その後、この複合施設の成り立ちについてご説明を頂きました。中でも保育園児とGHに暮らす障がいがある方との交流について興味深く拝聴しました。園児の遊具を障がいがある方が使おうとしたので保育士が止めに入ったところ、園児が「遊びたいんだからいいんだよ!」とかばったとのこと。主宰者は「この子どもたちが大きくなったらどのような社会を構成していくのか楽しみだ」と笑顔で話されていました。

 その保育所も開所した頃は保護者のみなさんとの間で保育方針について様々な議論があったそうです。例えば園庭に植わっていた低木が園児の目の高さになるので危ないから切ってほしい、という声が上がったところ、保育園側は「街中にはこのような低木が至る所にある。必要以上に安全性に配慮しすぎると自ら危険を回避する能力が育たなくなる」として保護者に理解を求めたそうです。

 いまでは利用規程の中にそのような文言を入れ、納得して入って頂いているそうですが、当初は保護者との間でもめることが多かったそうです。ただ私はその保育方針に非常に共感を持ちました。保育園・幼稚園や学校は社会の縮図であるべき、と考えています。安全性に配慮するあまり、必要以上に規則やルールで行動を制限したり施設・設備に手をかけすぎたりすると、社会で生きていく術を見失いかねません。自分で考え自分で判断する力を育てることが大切です。

 かといって事故が多発するような施設では困りますが、保育や教育の中で多様な人々と交わり、地域とかかわり、様々な経験をしながらどのような社会でも「生きていける力」を育んでいくことが重要です。そのように育った子どもたちが成人すれば、自分と意見や考え方が異なる人々ともコミュニケーションが取れ、自ら善悪の判断ができる社会人として地域を活性化させることができるかもしれません。

 少し話はそれますが、昨今、多数依頼がある講演会のテーマで、最もトレンドなのは「カスタマーハラスメント(カスハラ)」です。特に保育園、幼稚園、学校や学童保育、放課後等デイサービスなど子どもとかかわる職場からの依頼が多くなっています。カスタマーとは顧客のことですが、保育・教育関連の職場では子どもの保護者もカスタマーになるようです。

 保護者のみなさんを対象とした講演会では逆に「自分たちのどのような行為がハラスメントになるのか?」といった質問もありました。しかし、子どもを取り巻く学校等と家庭、そして地域(学童保育等を含む)がカスハラといったマイナスな関係性で対立することは望ましくありません。本来であれば三方から子どもを支えるチームとなり、連携していく関係性が理想なのですから。

 ただ、前述の「配慮され過ぎた保育・教育施設」は人間が複雑な社会の中で「生きていける力」を育めないかもしれません。学生と共に過ごす日々から、昨今の若者はとても素直で一生懸命で、友人とのチームワークを大切にする姿に接します。素晴らしい人間性を持った若者たちだな、と感動する反面、少し不安になることもあります。

 少人数の授業で他の学生が間違った解答をしたりうまく発表できなかったりすると、友人たちが「大丈夫、大丈夫!」「しっかり!」「次があるよ!」と励まします。素晴らしい友人たちだな、と感じます。うまくいかなかった学生もまた前向きな気持ちになり、再チャレンジする勇気を持つことができます。

 ただ、その関わり方を見ているとこんな考えも浮かびます。集団の中でできる限りトラブルは避けたい、自分が失敗した時もそうサポートしてほしい、できる限り笑顔の中で過ごしたい。私も常にそう考えながら生きていますが、ご存じのように社会はそれほど優しくはありません。特に教員を目指す学生たちには多様な同僚とのコミュニケーション力や保護者への対応力も必要です。

 ある授業で昔、私が少し言葉の強い保護者役となり、学生に教員役をさせながら個別面談のロールプレイをしました。自分としてはそれほど高圧的な対応をしたつもりはなかったのですが、何名かの学生が泣き出してしまいました。また別の授業で学生にプレゼンテーションをさせた際、説明の中にいまの時代にはそぐわない不適切な用語が含まれていたのでこっそり注意したところ、やはり泣き出してしまいました。

 自身も普段から学生対応にあまり厳しい言葉を使わないようにし、厳しくは接しても「怒る」というようなことは一切してこなかったのですが、それにしても今はガラスのハートを持った若者が多いことを実感しています。ある学生に聞いたところ「給料の額はもちろん大事だが、それよりも人間関係に悩まない職場が良い」と教えてくれました。教員不足、福祉職不足の一員がここにあるかもしれません。

 多くの小学校で「ちくちくことば」と「ふわふわことば」について教えていると思います。人を嫌な気持ちにさせてしまう言葉ではなく、気持ちの良い人間関係を構築するための優しい言葉を使いましょう、ということですね。必要な指導とは思いますが、世の中には「ちくちくことば」があふれています。すべての人間が「ふわふわことば」でコミュニケーションできればよいですが、カスハラ対策が進む世の中を見ればわかるように、それは幻想ですよね。。

 「ふわふわことば」しか知らない若者が教育、医療、看護、福祉といったいわゆる「感情労働」の仕事に就いた時、多様な人々としっかりコミュニケーションしていくことができるか、少し不安に感じています…。

 

以上