今回はカスタマーハラスメント(カスハラ)対策について、私自身の経験からいくつかお伝えします。

 ある学校に勤務していた時でした。金曜の19時を過ぎ、そろそろ帰ろうかと考えていた頃合いに職員室の電話が鳴りました。たまたまその電話を取った私に、保護者と思われる方が「責任者はいないのか?」と声をぶつけてきました。この日、管理職は出張等で不在であったためその旨を伝えたところ、保護者は「子どもがある教員から不適切な言葉をかけられた」とその内容を具体的に話し始めました。

 30分ほど話を聞いたうえで「必ず管理職に連絡しこちらからご連絡差し上げます」と伝えると保護者は電話を切りました。すぐに管理職に電話を入れ報告しました。管理職は「すぐにこちらから連絡した方が良いか、それとも金曜夜なので週明けに連絡した方が良いか」と悩んでいた様子でしたが、保護者の口調が激しかったので私から「数日開けて保護者が落ち着いた頃を見計らって電話を入れた方が良いのでは?」と伝え、管理職は月曜朝に折り返しの電話をすることとしてその日は終わりました。

 週が明けた月曜の朝早く、こちらから電話する前に当の保護者から学校へ電話がありました。対応した管理職を見ると平身低頭の様子でした。あとから事情を聴いてみると「なぜ早々に対応しないのか?」と怒りが頂点に達していたとのこと。管理職は「すぐに対応していればよかった」と後悔先に立たずの様子でした。

 いまではアフター5の電話対応を行う学校は少なくなり、怒りをぶつけるような電話は場合によってはカスハラと受け取られないのですが、このことから私が学んだのは「何らかのトラブルには迅速な初期対応で誠意を示すことが重要」ということでした。児童生徒の事故や自然災害では初期対応が極めて重要なのは理解できますが、これは保護者対応でも全く同じなのだと思います。

 以前にも触れましたが、学校に何らかの相談をしてくる保護者にはそれなりの理由や事情があり、悩んでいたり不安だったり、あるいは怒りに満ち溢れていたりします。もちろん強い言葉で相手を傷つけるような話は受け入れられませんが、子どもに関する相談ごとに対しては保護者の気持ちを組み、まずは真摯に話を聞き、可能な限り迅速に対応する必要があると思います。

 この初期対応を誤ると問題がこじれたり解決するまでに途方もない時間がかかったりします。そして徐々に保護者の思いがエスカレートすることも十分に考えられます。これは保護者対応だけでなく児童生徒を含むすべての人間関係に言えることだろうと思います。「トラブルには誠意をもって迅速に対応する」。カスハラの未然防止における重要な点の一つです。

 ある日、また電話が鳴りました。保護者からでした。電話に出たとたん「うちの子がいじめられている」。激怒した保護者の声が受話器に響きました。少し前に転校してきたお子さんですが、保護者に「新しい学校でいじめられている」と泣いて訴えたそうです。ただ事ではないので興奮する保護者に「こちらで詳しく調べたうえでいついつまでに必ずお返事を差し上げます」と伝え切りました。

 担任に伝えたところ驚いていました。その子どもにいじめられている様子は全く見られず、いつも友だちと楽しく遊んでいると教えてくれました。ただ教員が見ていないところで何かが起きているのかもしれない。担任は子どもとじっくり話してみることにしました。そして子どもは泣きながら「ウソをついてごめんなさい」と話し出したそうです。

 転校したばかりで元の学校が懐かしい、元の学校に戻りたい、「いじめられている」と伝えれば元の学校にまた転校できるのではないか、そう考え保護者に「いじめられている」と伝えたそうです。本人からも保護者にそう伝え謝ったようで、後日保護者から「申し訳なかった」と謝罪の電話がありました。

 保護者からの相談に対し感情的に対応することはもちろんタブーです。可能な限り落ち着いて対応し、情報を聞き出し、学校側で事情について調査するためにも少し時間をいただく場合があります。その際には必ず期日を明言し「いついつまでに調査し、何月何日にご連絡差し上げます」と伝え、期日を確実に守る。このようなプロセスが必要なことがあります。

 多くの保護者が子どもの言葉を信じます。子どももウソをついているつもりはないものの、話の流れの中でうまく真実を伝えられず、保護者がその言葉から概要を創造してしまうこともあります。もちろん保護者は絶対的に子どもの味方ですから「いじめられている」と考えてしまえば冷静ではいられなくなるでしょう。

 しかし保護者の理解が事実とは異なっている場合もあります。そこはご家庭でも学校でも様々な情報を収集し、それを突き合わせて事実を究明していく必要が生じます。子どもの証言が事実な場合もあるでしょうし、内容が異なる場合もあります。可能であれば何らかの物理的な記録があればよいのですが、そういうものがなくても教員の日々の記録、連絡帳、他の教員や子どもたちの話などから、学校の考えについて丁寧に保護者に伝えていってはどうでしょう。

 この出来事から私は先のケースとは反対に「時間をかけて調べ事実を伝えるようにする」ことも重要であると学びました。これらをケースバイケースで判断するのは大変だと思いますが、学校に連絡してくる保護者の心情に理解を示し、適切な判断をすることがカスハラの未然防止につながっていくと考えます。もちろんその判断は管理職の先生方になると思いますが…。

以上