子どもの心の病について続けます。特に「うつ」について。お伝えしてきましたように子どもの「うつ」は潜在している(隠れている)ことが多く、見つけづらいことが特徴です。子ども自身が「自分はうつである」と自覚することは難しく、早期発見できるとしたら彼らと日常的に向き合っている保護者か教員になるでしょう。

特に子どもの「うつ」を早期に見つけやすいのは教員です。小中学校のクラスにはある程度の人数になる同年代の子どもたちがいて比較しやすくなっています。30人の子どもたちがみな笑顔で学校生活を楽しんでいる中に一人だけ元気のない子どもがいれば、観察力の鋭い先生であればその様子にすぐ気が付くと思います。

それが「うつ」かどうかはすぐにはわからないと思いますが、元気のない様子が数日間続くようであれば動くべきです。子どもや保護者から情報を得ることはもちろん、授業中の様子や給食の食べ方、友だちとの交流について行動観察してみてください。これまでもお伝えしてきましたが「うつ」は心の病であると同時に身体的な症状を必ず伴います。元気のない子どもがさらに体のだるさを訴え、睡眠不足だったり夜中や朝早くに目が覚めたり、発熱などの症状がなくても頭痛や腹痛を訴えたりする場合には「病気」である可能性を考えましょう。

それは身体的な病気である可能性もあるので、担任であれば養護教諭など関係の先生方と情報共有し、相談したうえで保護者に病院への受診を勧めてみてください。子どもが受診した結果、身体的な病気の可能性がなければ心の病の可能性を指摘されると思います。専門の病院に紹介状を書いてもらい早期の専門医受診につながればベストです。

成人であっても自分が「うつ」など心の病になっていることを自覚するのはとても難しいです。以前もお伝えしましたように真面目で一生懸命な方が心の病になりやすい、と言われています。元気が出なかったり辛くなったり悩みが増えたりすれば、メンタルが弱いからだと自責の念に駆られ、より頑張ってしまいさらに空回りした結果、気が付いた時には症状が重くなっていることがあります。

子どもであればより自覚することは難しく、何で元気がなくなったのか、何でいままであんなに大好きだったゲームをしたくなくなってきたのか、あんなに大好きだったお菓子が食べられなくなってきたのか原因がわからないばかりか、そこに気づくこともできない場合があります。それが発見をより遅らせます。

そして周囲の大人が子どもの心の変調に気づかず「頑張れ!」「やる気がない」「努力しなさい」などと叱咤激励すれば子どもは変調の原因は自分にあるのだと考えてさらに無理を重ね、余計に症状を悪化させます。結果的にいくら努力しても状況が改善しないと大人からより当たりが厳しくなり、場合によっては最悪の結果につながってしまうこともあります。

例えば発達障がいや知的障がいがあっても周囲や本人がそれに気づいていない場合、子どもたちはその障がい特性から、できないことや失敗が多くなり、それを「意図的である」と責められ、自分では一生懸命やっているつもりなのになぜできないのか、どこが悪いのが、何が間違っているのかもわからないまま心が傾いていきます。

さらにそのような傾向のある子どもたちは自分の気持ちを言葉にすることが苦手な場合があり、大人から症状や様子を聞かれても「わからない」「別に」「大丈夫」「何でもない」とあいまいに答えます。そんな言葉を聞くと大人も詳しく聞くことがはばかられたり面倒になったりし、あまり気にしなくなってしまいます。その間に彼らの心がどんどん蝕まれているかもしれません。

また意外に知られていないのですが「うつ」などの心の病の症状の一つには非行や授業妨害など反社会的行動が含まれている場合があります。自分の気持ちを思うようにコントロールできない、心身の状態が辛い、なんだか知らないがイライラしてしまう、なのに周りがわかってくれないとしたらそれが怒りになって表れてしまうことは容易に想像できます。

そのような子どもたちに対し学校や家庭が厳しい指導を続けていけば彼らの心はもはや持たなくなってしまいます。場合によっては体や心の辛さを一時的にでも忘れようと喫煙、薬物、飲酒、その他の物質や暴力行為、暴走行為など反社会的、非社会的行動に依存してしまう可能性があります。それにより症状を一時的に忘れることはできてもやがて心身の状況を悪化させ、これもまた悲劇的な結末につながってしまうかもしれません。

発達障がいはとても注目されていますが子どもの「うつ」はよく知られていません。そして不登校やいじめ、授業妨害や非行の背景に「うつ」が潜在していることも知られていません。相談会で対応する課題を抱えた子どもたちを見ていると、学校や社会に対する不適応行動の背景にはかなりの「うつ」が隠れているように感じています。その場合には躊躇なく保護者に受診を勧めます。

みなさん、ぜひ自身のお子さんや教え子を含め「あれっ?いつもと少し違うな?」「ちょっと元気がないかな?」と気づき、それが数日続くようであれば「うつ」の可能性を考えてみてください。あるいは他の要因が隠れているかもしれません。それは子どもたちからの無言の「助けて!」というサインかもしれません。そのサインを見逃さないでください!

以上