昔は「18歳未満の子どもは心の病(精神疾患)にならないのではないか」と言われていました。おそらくそれは誤った情報だったのだろうと思います。昔から子どもの心の病は存在していたのでしょう。しかし、本来は心や体を成長させながら常に前向きに生きていくはずの子どもたちが心を病み、中には自らの命を閉じてしまう子が出てくるとは当時、誰も想像できなかったでしょう。
厚生労働省の令和2(2020)年調査では「20歳未満の精神疾患総患者数は59.9万人」であり、約20年間で 5倍以上に増加しているということでした。20歳未満人口はおおよそ1900万人前後ですから、20歳未満の青少年の実に約3%が心の病(精神疾患)である可能性があります。100人に3人ですね。
法律では「児童」を18歳未満と規定していますので、心の病である児童が実際のところ何人なのかはっきりとしたことはわかりませんが、おそらくみなさんの想像以上だろうと思います。ちなみに心の病(精神疾患)には統合失調症、不安障害、うつ病などがありますが、ある調査では小学生で全体の7~8%、中学生で22~23%に「抑うつ症状」(うつ病の前症状)があるとの結果が出ていて、すでにうつ病の症状が出ている小学生は1~2%、中学生で4~5%存在しているのではないか、とも言われています。
うつ病と聞くと多くの方が「憂鬱な気持ちになる」「前向きな気持ちがなくなる」などと解釈されているかもしれませんが、心の症状とともに体に症状が出るのが特徴的です。そして自分ではうつになっていることに気が付かない場合が多いのですが、特に子どもは自分の心身の状態を意識したり言葉にしたりすることが難しく、周囲が「あれ?」と感じた頃にはかなり症状が進んでいる場合があります。
厚生労働省「10代、20代のメンタルサポートサイト」(https://www.mhlw.go.jp/kokoro/parent/sos/text3.html)では子どもの「うつ」の症状に周囲が気づきやすいポイントが示されています。
■うつ病のこころのサイン
- ゆううつ、悲しい
- 無気力、無関心
- 意欲、集中力、決断力が低下する
- 焦燥感、自責感が強くなる
- 悲観的になる
- 柔軟な考え方ができなくなる
- 将来に希望がもてなくなる
■うつ病のカラダのサイン
- 眠れない、もしくは寝過ぎる
- 食欲が低下する、もしくは食べ過ぎる
- だるい、疲れやすい、元気が出ない
- 頭痛、頭重、めまい、吐き気など
さて、ではどのような子どもが「うつ」になりやすいのでしょう。「メランコリー型の性格」の人がなりやすいという説があります。「何ごとにも一生懸命で真面目、責任感が強く人間関係に気を使うタイプ」のような性格をメランコリー型と呼ぶようですが、いわゆる「良い人」が「うつ」になりやすいということのようです。
以前、相談対応した中に次のような例がありました。小学校で成績が良くまじめなあるお子さんは先生や友だちからも信頼され、毎年のように学級委員長に指名されていました。中学校に進むと小学校からの情報を聞いた担任の先生から、やはり学級委員長をやってほしいとお願いされ、当たり前のように引き受けました。
しかし中学生ともなると小学生のように同級生の指示には従わなくなり、ホームルームを開いても誰も言うことを聞かず、頑張れば頑張るほど同級生から非難されるようになりました。そして担任の先生からも「学級がまとまらないのはおまえのせいだ」と叱られ、よりいっそう頑張りすぎ、やがて学校へ行けなくなり、病院で「うつ病」の診断を受けました。
本当に非難されるべきは自分の責任を棚に上げた担任の先生ではありますが、このようなお子さんがメランコリー型と呼ばれ、環境によっては「うつ」になってしまうことがあるようです。ただ、最近ではこのような例に加え「責任感が強すぎ融通が利かないくらいの生真面目さゆえに人間関係が良好ではないタイプ」をメランコリー型と指す場合もあるようです。
もしそうだとすれば、この記事をお読みの方には何かピンとくるものがあるのではないでしょうか。子どもの心の病(精神疾患)を発症する背景要因は多様ですが、発達障がいの二次障害として「うつ」を発症するお子さんがいます。「融通が利かない」という表現はネガティブですが、これを「こだわりが強い」「変更、変化に弱い」と言い換え、それに加え「人間関係が良好ではない」としたら、この中に発達障がい傾向があるお子さんがいても不思議ではありません。
ベースに発達障がいや知的障がいがあり、周囲がそれに気づかずに、お子さんが持っているスキル以上のことを求められたり期待されたりし、その求めや期待に応じた結果を残せないと本人の努力不足と非難され、もっと頑張ることを要求される。そして頑張りすぎた結果「うつ」を発症してしまう。こういうお子さんも多いのではないでしょうか。不登校や引きこもりの要因の一つとしても「うつ」への対応はとても重要です。
すべての学校やご家庭で、もう少し子どもの心の病に関心を持っていただきたいと願っています。それが教育課題を減らし、お子さんの生命や健康を守る一つの手立てになるかもしれません。
以上