昨今は通常の学級にいる発達障がいがあるお子さんへの支援が注目されています。大事なことです。しかし、忘れられがちなのは病気のお子さんへの支援です。いや、支援というよりは教育における合理的配慮の在り方、と言った方が適切かもしれません。なぜなら文部科学省の調査(2022年)で、全国の小中学校には全児童生徒のうちの8.8%に発達に関する課題があるのではないか、と言われる数字と比べ、病気お子さんの割合はそんなレベルではないからです。

 学校保健統計(2024年度)では小児ぜんそくのお子さんが小学校で3%程度、アトピー性皮膚炎も3%程度、そして食物アレルギーがあるお子さんは6%程度存在することが明らかになっています。このほかにも腎臓病、糖尿病、心臓病、また神経や骨の病気などのお子さんが多数います。そして最近では子どもの心の病としてうつ病、抑うつ傾向のお子さんが5%程度いるのではないか、とも言われています。

 つまり通常の学級で学んでいるお子さんの中には5人に1人、20%程度に何らかの病気、慢性疾患があるのかもしれません。発達障害の8.8%をはるかに上回る数字です。しかし、これらのお子さんに対して学校では健康上の配慮はされても教育面での配慮をしているところは少ないのかもしれません。食物アレルギーのお子さんに対し給食の献立が配慮されていることは知られてきましたが、例えば、体育の際に起きやすい「運動誘発アナフィラキシー」にも配慮が必要なことはあまり知られていません。

 運動誘発アナフィラキシーとは、アナフィラキシー(発作)を誘発する食品を食べてもその時には激しい症状は起きないのですが、食後2時間以内に運動をするとアナフィラキシーが誘発されることがあります。アレルギーのある子どもたちや担任の先生はその情報を知っていても、先生が少し目を離せば子どもは給食後の昼休み、校庭で友だちと遊ぶことを選択しまうかもしれません。あるいは午後の5時間目、6時間目に体育の授業があれば、食事の際に異変はなかったので大丈夫だろうと参加し、アナフィラキシーが起きる場合もあります。

 だからと言って「体育を見学しなさい」と指示され、友だちが元気に走り回る姿を見ながらノートに記録を取るようなことを合理的配慮とは言いません。文科省のHPには病気の子どもの教育内容における配慮事項について「病気のため実施できない体育の実技や理科の実験などの活動を実施可能な活動に替えるなど、指導内容・方法を工夫して指導する」と示されています。あくまでも主治医の指示に従う前提ではありますが、ともに体育に参加し、体を動かす場面を避けるなどの配慮を受けながら先生の指導を受けることはできると思います。

 以前、病気のお子さんが通う特別支援学校でコーディネーター(相談担当)をしていた際、ある病気と向き合いながら地元の小学校に通っていたお子さんを持つ保護者から相談を受けました。小さい頃からサッカーが大好きだったお子さんは、小学校に入学しても体育の成績はとても良かったのですが、病気になり、治療を続けながら小学校に通い続けました。しかし体育の時間はすべて見学するように言われ、もらった通知表の体育の成績欄にはすべて「×」が付けられていて、それを見ながら親子で泣いたそうです。

 保護者は「こちらの学校に転校することはできないでしょうか?」と相談され、私はすぐに管理職に報告し、お子さんの転校が決まりました。特別支援学校に初めて登校した日、体育の時間になり、体育館でできる範囲で体を動かし、帰宅してから満面の笑みで「今日、体育の授業をやったよ!」と両親に報告したそうです。体育を見学させられたり食物アレルギーで保健室で先生と二人きりで別室給食を摂ったり、校外学習や宿泊行事でその子にだけ保護者が同伴したりすることなどは大人が想像する以上に子どもの心に影響を与えているのかもしれません。

 余談ですが、通常の学級で学ぶ自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如多動症(ADHD)、限局性学習症(SLD)などの発達障がいがあるお子さんのうち、学校が最も力を入れて対応しているといわれているものは何だと思いますか?実は「ADHDがあるお子さんの指導が大変」という学校関係者が多いようです。ADHDの特性として注意欠陥、多動性、衝動性がありますが、この3つは学校における教育課題に直結しやすいと言われています。注意欠陥は「忘れ物が多い」「整理整頓ができない」、多動性としては「授業中立ち歩く」「授業に集中しない」、衝動性としては「キレやすい」「友だちとトラブルになる」など。

 「生徒指導上の課題」と同一視し、授業を成立させトラブルのない学校を作るためにも、その背景にあるかもしれないADHDにアプローチしよう、と考える学校は多いようです。逆にあまり学校が注目していないのはSLDではないかと言われています。学習上の課題は多いものの授業妨害するわけでもなくルールを守って学校生活を送っている彼らの困り感は先生にとってはややわかりづらいのかもしれません。

 病気の子どもへの支援にも同じような背景があるのではないでしょうか。特に授業妨害することもなくまじめに勉強している病気のお子さんに対し「健康上の配慮をしていれば大丈夫」だと考えられていれば、学校生活面、特に学習面で壁になる部分にも配慮をしようと考える先生は少ないかもしれません。特に学校の先生は最近、本当に忙しく、人手不足もあって一人一人の課題に向き合うことは難しくなっているのでしょう。

 この記事を読んでいるみなさんには通常の学校に通う様々な病気のお子さんにも教育上の配慮が必要であることを知っていただければ有難いです。次回は子どもの心の病に焦点を当てて語ってみたいと思います。

以上