私の専門分野は特別支援教育のうち知的障がい教育、発達障がい教育、病弱教育となっています。いずれも特別支援学校での教員経験を土台にしながら大学院で学んだり、資格を取得したりして専門性を高めてきました。知的障がいがあるお子さんが通う特別支援学校にはトータルで15年間、病気の子どもが通う病弱教育の特別支援学校で8年間を教員や管理職として働いてきました。
発達障がいについては当初、知的障がい特別支援学校に在籍する自閉スペクトラム症(ASD)があるお子さんについて校内で勉強会を立ち上げ、志を同じくする先生方と一緒に講師を呼んで学んだり、あるお子さんについて様々な支援方法を検討したりしながら対応スキルを磨いてきました。
その後、病弱教育の特別支援学校に在勤していた当時、特別支援教育の改革に伴い新しく配置されるようになった「特別支援教育コーディネーター」に任命され、近隣の小中学校や高等学校からASDやADHD(注意欠如多動症)、SLD(限局性学習症・学習障害)のお子さんに関する相談を頂くようになり、様々な研修会に参加しながら発達障がいに関する学びを深めました。
このブログだけでなく動画チャンネルでは知識や経験を基にして発達障がいや知的障がいについて発信していますが、今回はもう一つの専門分野である病気のお子さんへの教育である「病弱教育」について少しお話ししたいと思います。みなさん、意外と知らないですよね?
特別支援学校は法律で視覚障がい(盲学校)、聴覚障がい(ろう学校)、知的障がい、肢体不自由、病弱の5種類の設置が認められています。この中では視覚障がい、聴覚障がい、病弱の学校はインクルーシブ教育(障がいがある子もない子も共に学ぶ教育)が推進されてきているため、児童生徒数が減り、全国的に学校数が縮減される傾向にあります。都道府県に1~2校程度かと思います。
視覚障がいがあるお子さんであれば点字教科書の使用や点字タイプライターでのノートテイク、校内への点字ブロックの設置などで合理的配慮ができ、同じく聴覚障がいに関しては音声文字変換ソフトが普及してきたため先生や友だちの言葉がリアルタイムで文字で確認でき、また発信する場合にもICT機器を使い思いを文字にすると意思の疎通が可能になります。両障がいとも通常の学校、学級で学ぶケースがとても増えています。
病気のお子さんの学校も減っているのですが、視覚障がいや聴覚障がいの学校減とは少し事情が異なります。
昭和から平成にかけ、病気のお子さんは治療のため病院に入院しながら隣接・併設されている特別支援学校(旧称:養護学校)に通うことがほとんどでした。特に昭和30年代には結核がまだ国民病と呼ばれた頃、多くの人が罹患し、安静にしながら回復を待つことが多く、子どもたちも結核になると長期入院することが通常でした。しかし身体は比較的元気なままの子どもたちは、特に何もない病院生活の中で生きがいややりがいを求めていました。
そこで同じ病気で入院していた教員やボランティアの大学生などが入院病棟で勉強を教え始め、それがやがて病弱教育の学校に発展していったようです。その後、様々な病気で長期入院することになった子どもたちのため全国に病弱教育の養護学校(特別支援学校)が設置され今に至ります。
21世紀に入り医療制度改革が進み、一言で言えば入院が長びけば長びくほど病院側に入る診療報酬が減ることになり、病院は入院病棟の回転率を上げることに力を注ぐようになりました。背景には精神疾患の方の長期入院を減らし地域移行を進めたいとする福祉的な視点もありました。また医療が発展し、例えば入院してがんの手術をうけても10日程度で退院できるケースも出てきました。在宅治療のための医療機器も発展しています。
このため全国の病弱教育特別支援学校には20世紀の頃のように入院しながら通う子どもたちの数が減り、今では自宅から通う病気があるお子さんが増えています。また児童生徒数が減ったため他の特別支援学校と統合されるところも増え、学校自体の数がこの10年で減り続けています。
これは全国で共通したことではありませんが、病弱教育特別支援学校の中には精神疾患(心の病)や発達障がいがあるお子さんを対象にしているところも出てきています。背景は様々ですが、発達障がいの二次障がいとして地域の学校に通えなくなったお子さんなどが通うところもあります。また最近は子どものうつ病も増加傾向にあり、入院したり通院したりして心の病を治療しながら病弱教育特別支援学校に通うケースがあります。
教育課題となっている不登校や子どもの引きこもりなどの背景に心の病がある可能性は大きく、その場合は心の病の治療が進めば課題解消につながるかもしれません。特別支援学校とは言っても病気のお子さんのための学校で学ぶ内容は小中学校や高校と同じ場合もあります。教え子の中には病弱の学校を卒業して大学に進み、教員免許を取って先生として働いている者もいます。いまの時代にこそ病気のお子さんのための学校の存在意義はとても大きくなっていると思います。
次回はさらに意外と知られていない病気のお子さんへの教育「病弱教育」について解説していきたいと思います。
以上